ブログ

高FODMAP食について

高FODMAP食は、過敏性腸症候群(IBS)などの消化器症状に悩む方にとって、症状を引き起こす可能性がある食品群として近年注目を集めています。しかし、「FODMAP」という言葉を耳にしたことがない、あるいはその概念が漠然としている方も少なくないでしょう。この記事では、高FODMAP食とは具体的に何を指すのか、なぜ消化器症状を引き起こすのか、そして具体的な食品例や低FODMAP食との関係性について、深掘りして解説します。

 

FODMAPとは何か?そのメカニズムを理解する

FODMAPは、Fermentable Oligo-, Di-, Mono-saccharides and Polyols(発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール)の頭文字をとったものです。これらは、小腸で吸収されにくく、大腸で腸内細菌によって急速に発酵されやすい特徴を持つ一連の糖質の総称です。健康な人であれば問題とならないことが多いのですが、消化器系が敏感な人にとっては、不快な症状の原因となり得ます。

FODMAPは主に以下の4つのカテゴリーに分けられます。

  • ●オリゴ糖(Oligosaccharides): 主にフルクタンとガラクトオリゴ糖が含まれます。フルクタンは、小麦、玉ねぎ、ニンニク、アスパラガスなどに多く含まれ、ガラクトオリゴ糖は豆類に豊富です。これらは大腸で腸内細菌によって発酵され、ガスを発生させます。

  • ●二糖類(Disaccharides): 最も代表的なのは乳糖です。牛乳、ヨーグルト、一部のチーズといった乳製品に多く含まれており、乳糖不耐症の人は特に注意が必要です。小腸で乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が不足していると、乳糖がそのまま大腸に到達し、発酵されて症状を引き起こします。

●単糖類(Monosaccharides): 主に果糖がこれに該当します。りんご、梨、マンゴー、はちみつ、高果糖コーンシロップなどに含まれており、ブドウ糖よりも果糖の割合が多い食品を一度に大量に摂取すると、吸収されずに大腸に到達しやすくなります。

●ポリオール(Polyols): ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトールなどの糖アルコールを指します。これらは一部の果物(りんご、梨、桃、さくらんぼなど)や野菜(マッシュルーム、カリフラワーなど)にも含まれるほか、ダイエット食品やガムなどの人工甘味料としても広く利用されています。

 

なぜ高FODMAP食は症状を引き起こすのか?

FODMAPが小腸で十分に吸収されないまま大腸に到達すると、主に二つのメカニズムによって消化器症状が引き起こされます。

  1. 発酵によるガスの発生
    大腸に到達したFODMAPは、そこに生息する腸内細菌の格好の餌となります。細菌はFODMAPを分解する際に、水素、メタン、二酸化炭素などのガスを大量に発生させます。これらのガスが大腸内に溜まることで、腹部膨満感やお腹の張り、腹痛といった症状が引き起こされます。
  2.  
  3. 浸透圧による水分の引き込み
    FODMAPは浸透圧が高く、大腸内に水分を引き込む性質があります。これにより、便の量が増えたり、便が緩くなったりすることで、下痢や、ガスと水分のバランスによっては便秘といった症状を招くことがあります。

これらのメカニズムは、特に過敏性腸症候群(IBS)の患者さんにおいて顕著に現れやすく、症状の悪化に直結すると考えられています。

日常に潜む高FODMAP食品の例

私たちが普段何気なく口にしている食品の中には、FODMAPを多く含むものが少なくありません。以下に代表的な高FODMAP食品の例を挙げます。

穀物・粉物

  • 小麦: パン、パスタ、うどん、ラーメン、クッキー、ビスケットなど、加工食品全般に広く使われています。
  • ライ麦: ライ麦パンなどが該当します。

野菜

  • 玉ねぎ、ニンニク: 調味料や風味付けとして多くの料理に使われます。
  • アスパラガス、カリフラワー、マッシュルーム: 食物繊維も豊富ですが、FODMAPも多く含みます。
  • キャベツ、ブロッコリー: 比較的FODMAPは少なめですが、大量に摂取すると症状を誘発することがあります。

果物

  • りんご、なし、マンゴー、スイカ、さくらんぼ、桃: これらは果糖やポリオールを多く含みます。
  • ドライフルーツ: 水分が抜けている分、FODMAPが凝縮されているため、少量でも注意が必要です。

豆類

  • 大豆: 豆腐、納豆など。加工方法や摂取量によってFODMAP含有量は異なります。
  • レンズ豆、ひよこ豆、インゲン豆: 食物繊維も豊富ですが、ガラクトオリゴ糖を多く含みます。

乳製品

  • 牛乳、ヨーグルト: 乳糖を多く含むため、乳糖不耐症の方は特に症状が出やすいです。
  • 一部のチーズ: フレッシュチーズ(リコッタチーズなど)は乳糖を比較的多く含みますが、熟成されたチーズ(チェダーチーズなど)は乳糖が少ない傾向があります。

その他

  • はちみつ: 果糖が豊富です。
  • 高果糖コーンシロップ: 清涼飲料水や加工食品に広く使われています。
  • 人工甘味料: キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。ガム、ダイエット食品、一部の医薬品にも使用されています。
  • ナッツ類: カシューナッツ、ピスタチオはFODMAPを多く含みます。

 

これらの食品は、健康な方にとっては栄養豊富で何ら問題ありませんが、FODMAPに敏感な体質の方にとっては、日常の症状の引き金となる可能性があることを理解しておくことが重要です。

低FODMAP食というアプローチ

もし上記のような高FODMAP食品を摂取した後に、繰り返す腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘といった消化器症状に悩まされているのであれば、低FODMAP食という食事療法が有効なアプローチとなるかもしれません。

低FODMAP食は、FODMAPの摂取量を一時的に厳しく制限し、症状の改善を図る段階的な食事療法です。具体的には、以下の3つのフェーズで進められます。

  1. 【除去期】
    2~6週間程度、高FODMAP食品を完全に食事から除去します。この期間で症状の改善が見られるかを確認します。

  2. 【再導入期】
    除去期で症状が改善した場合、一度に一種類のFODMAP食品を少量ずつ再導入し、どのFODMAPが、どのくらいの量で症状を引き起こすのかを特定します。これにより、個人のFODMAPに対する「閾値(いきち)」を見つけ出します。

  3. 【パーソナライズ期】
    特定されたFODMAPの種類と量を考慮し、自分にとって快適な食生活を確立します。不必要に食品を制限することなく、症状が出ない範囲で多様な食品を楽しむことを目指します。

低FODMAP食は、IBS患者の7割以上で症状の改善が見られたという研究報告もあり、非常に効果的な食事療法として世界中で認知されています。ただし、自己判断で厳格な制限を行うと、栄養バランスが偏ったり、不必要な食品制限につながる可能性もあります。そのため、この食事療法を行う際は、必ず消化器内科医といった専門家の指導のもとで進めることが推奨されます。

 

まとめ

高FODMAP食は、特定の消化器症状の引き金となり得る糖質を含む食品群です。
これらの食品がなぜ症状を引き起こすのか、そのメカニズムを理解し、具体的な食品例を知ることは、日々の食事と自身の体調の関係性を把握する上で非常に役立ちます。もしあなたが長年にわたり消化器症状に悩まされているのであれば、高FODMAP食がその原因の一つである可能性も十分に考えられます。
消化器症状にお悩みの方はお気軽に当院までご相談下さい。

【過敏性腸症候群のページはこちら】