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過敏性腸症候群(IBS)とストレスの関係性

なぜお腹は緊張に弱い?
過敏性腸症候群(IBS)の原因と「脳腸相関」の深い関係

  • 「重要な会議の前にお腹が痛くなる」「通勤電車でお腹の調子が悪くなる」。このような経験は誰にでもあるかもしれませんが、その症状が慢性化し、日常生活に支障をきたしている場合、 過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome: IBS) が疑われます。

    IBSは、腹痛腹部不快感とともに、便秘下痢を繰り返す、消化器の機能性疾患です。大腸に目に見える炎症や潰瘍といった異常がないにもかかわらず、強い症状が出ることが特徴で、日本人の10〜15%が罹患しているとされています。

    このIBSの症状を悪化させる最大の要因の一つが 「ストレス」です。本ブログでは、IBSとストレスの関係性のメカニズムである「脳腸相関」 を深く掘り下げ、症状を和らげるための具体的な対処法についてご紹介します。

 過敏性腸症候群(IBS)とは?
主な症状と分類

IBSは、命に関わる病気ではありませんが、 生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。

IBSの定義と診断基準(Rome IV基準など)

IBSと診断されるには、まず大腸内視鏡検査などで潰瘍性大腸炎や大腸がんといった器質的な病変(目に見える異常)がないことを確認することが大前提となります。その上で、 「過去3ヶ月で、平均して週に1回以上、腹痛があり、それが排便に関連していること」 などの国際的な診断基準(Rome IV基準など)を満たす必要があります。

IBSの4つのタイプ

IBSは、便の性状によって主に以下の4つのタイプに分類されます。

  1. 下痢型(IBS-D): 頻繁な下痢、急な便意が特徴。特に男性に多く見られます。
  2. 便秘型(IBS-C): 硬い便や排便困難が特徴。女性に多く見られます。
  3. 混合型(IBS-M): 下痢と便秘を交互に繰り返します。
  4. 分類不能型(IBS-U): 上記のどれにも分類されない、あるいは便の性状の異常が軽度なもの。

タイプによって治療薬の選択が異なるため、自分の症状を正確に把握することが重要です。

なぜストレスがお腹を壊すのか?
「脳腸相関」のメカニズム

IBSの根本的な原因は一つではありませんが、脳と腸の密接な連携が深く関わっています。

脳と腸を結ぶ「脳腸相関」

脳と腸は、自律神経ホルモン、そして腸内で作られる神経伝達物質を介して、常に情報のやり取りをしています。これを 「脳腸相関」 と呼びます。

私たちが不安緊張といったストレスを感じると、脳から腸へと信号が送られます。この信号が過剰になると、腸の 蠕動運動(ぜんどううんどう:内容物を送る動き) が乱れ、動きすぎれば下痢に、動きが抑制されれば便秘となって現れます。

ストレスによる「内臓知覚過敏」

  • ストレスは、「内臓知覚過敏」という現象も引き起こします。これは、腸が痛み不快感を感じるセンサーが過敏になり、健常者であれば何とも感じない程度の腸の動きやガスの発生でも、強い痛みや膨満感として感じてしまう状態です。ストレスが続くと、脳の痛みを抑制する機能も低下し、症状をより強く感じやすくなります。

  • 腸内細菌叢(腸内フローラ)への影響

  • 最近の研究では、ストレスが腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスを悪化させることも分かっています。悪玉菌が増え、善玉菌が減ることで、腸のバリア機能が低下したり、有害な物質が発生したりし、これがさらに腸の炎症や過敏性を高めるという悪循環に陥るのです。

ストレスを管理し
IBSを改善するための具体的な対策

IBSの治療は、薬物療法と生活習慣の改善の両輪で行われます。特にストレス対策は欠かせません。

食生活の見直し:低FODMAP食とIBS

IBSの症状は、特定の食品によって誘発されることがあり、近年注目されているのが 「FODMAP(フォドマップ)」 という一群の糖質です。
FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい糖質の総称で、これらを多く含む食品を摂ると、腸内でガスが発生したり、水分が引き込まれたりして、IBSの症状が悪化しやすくなります。

高FODMAP食品の例 低FODMAP食品の例

小麦玉ねぎにんにく

牛乳豆類りんごなど

じゃがいも鶏肉

乳糖フリー牛乳柑橘類など

全てのFODMAPを避ける必要はありませんが、症状を悪化させる食品を特定し、一時的に制限する低FODMAP食は、症状改善に有効な治療法の一つです。

腸の動きを整える薬物療法

  • 症状のタイプに応じて、様々な治療薬が用いられます。

    • 高分子重合体: 便の水分量を調節し、下痢にも便秘にも対応する。
    • セロトニン受容体拮抗薬・作動薬: 腸の動きと痛みの信号を調節する(下痢型・便秘型で異なる)。
    • 胆汁酸トランスポーター阻害薬: 下痢型IBSに使用される。
    • 漢方薬: ストレスや自律神経に作用し、体質改善を促すものも有効。

 ストレスマネジメントと生活習慣

物理的な治療に加え、ストレスそのものに対処する姿勢が大切です。

  1. 1.規則正しい生活と質の高い睡眠
    自律神経の安定に直結します。
  2. 2.適度な運動
    特にウォーキングやヨガなどのリズム運動は、自律神経を整える効果があります。
  3. 3.心理療法(認知行動療法など)
    症状に対する不安や恐怖を和らげ、 「お腹の症状に意識が集中しすぎる状態」 を改善するのに役立ちます。

症状を「気のせい」と放置せず、専門医へ相談を

  • 過敏性腸症候群は、 「大腸がんなどの重篤な病気ではない」 という診断が確定していることが重要です。自己判断で「ストレスのせいだ」と済ませてしまうと、他の病気の発見が遅れる可能性があります。

    血便体重減少発熱など、IBSでは通常見られない「警告症状」がある場合は、すぐに消化器内科の専門医にご相談ください。IBSは、適切に診断し、治療と生活習慣の改善を行うことで、症状をコントロールし、生活の質を大きく向上させることが可能な病気です。