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血便とストレスの関係性

「血便が出たけれど、特に思い当たる原因がない」
「大きなストレスを感じた後に、便に血が混じるようになった」
このような経験をされた方は少なくありません。
血便(便に血が混じること)は、消化管からの出血を示す重要なサインであり、大腸がんや潰瘍性大腸炎など、重篤な疾患の可能性を含んでいるため、安易に自己判断してはいけません。
しかし、診察の結果、器質的な病変(ポリープや潰瘍など)が見つからず、「ストレス性のものだろう」と診断されるケースも確かに存在します。

血便を見たらまずは医療機関へ

  • まず大前提として、血便が出た場合、自己判断で「ストレスのせい」と決めつけるのは大変危険です。血便は、以下の病気の症状である可能性があるからです。


  • 【血便の裏に潜む重篤な疾患】

    原因疾患 出血の特徴(目安) 関連する症状

    大腸がん

    暗赤色、粘液が混じる(潜血の場合も多い)

    便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す

    潰瘍性大腸炎/クローン病

    粘血便(粘液と血液が混じる)

    腹痛、下痢、発熱、体重減少

    大腸ポリープ

    鮮血または潜血

    自覚症状なしで進行することが多い

    虚血性腸炎

    突然の腹痛の後に血便(赤黒い血液)

    高齢者や動脈硬化のある人に多い

    痔核(いぼ痔/切れ痔)

    鮮血(便の表面に付着、排便時にポタポタ)

    肛門の痛み、違和感

    ストレスが原因で血便が出る場合であっても、上記の病気が同時に発生している可能性は否定できません。 血便を確認したら、まずは内視鏡検査などで器質的な病変がないかを確認することが、命を守る上で最も重要です。

ストレスが血便を引き起こすメカニズム

  1. 検査で重篤な病気が除外された後、精神的なストレスが間接的、あるいは直接的に消化管に出血を引き起こすことがあります。そのメカニズムは主に自律神経と免疫を介しています。

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  3. メカニズム① 自律神経の乱れによる血流障害

  4. 消化管の働きは、自律神経(交感神経と副交感神経)によって精密に制御されています。

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  6. 強いストレスの負荷
  7. 強いストレスがかかると、体を緊張させる交感神経が優位になります。
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  9. 血管の収縮
  10. 交感神経が優位になると、腸管の血管が収縮し、腸の粘膜への血流が一時的に低下します(虚血状態)。

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  12. 粘膜の脆弱化
  13. 血流が低下すると、腸の粘膜細胞が酸素や栄養不足に陥り、粘膜のバリア機能が低下し、炎症や潰瘍を起こしやすくなります。

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  15. 出血
  16. 脆弱化した粘膜が便の摩擦などで傷つき、出血(血便)を引き起こします。これが虚血性腸炎と似た症状を引き起こす原因ともなります。

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  18. メカニズム② 腸内環境と炎症の悪化

  19. ストレスは、腸内に生息する腸内細菌のバランス(腸内フローラ)を悪化させることが知られています。
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  21. 悪玉菌の増加
  22. ストレスによって腸の動きや分泌物のバランスが崩れ、悪玉菌が優位になり、腸内環境が悪化します。
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  24. 炎症の促進
  25. 腸内環境の悪化は、免疫細胞が集中する腸粘膜の炎症を引き起こしやすくなり、既存の炎症性疾患(潰瘍性大腸炎など)を悪化させる要因となります。

ストレスと関連性の高い血便を伴う消化器疾患

  • ストレスが直接的な原因とは限らなくても、ストレスによって症状が悪化したり、発症の引き金になったりする消化器疾患があります。

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  • 1. 過敏性腸症候群(IBS)

  • IBSは、大腸に炎症や潰瘍などの器質的な病変がないにもかかわらず、腹痛や下痢、便秘などが慢性的に続く病気です。
    ストレスとの関連: ストレスは、腸の知覚過敏(わずかな刺激でも痛みを感じる)を引き起こし、腸の運動異常を増強させます。


  • 血便との関係
  • IBS自体は基本的に血便を伴いませんが、強い下痢型IBSによって肛門に負担がかかり、軽度の痔を併発して鮮血を伴うことがあります。また、IBS患者はストレスにより腸の炎症を起こしやすく、潜血(肉眼では見えない微量の出血)が検出されることがあります。

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  • 2. ストレス性胃潰瘍・大腸炎

  • 強い心理的・肉体的ストレス(手術、重症な病気、精神的ショックなど)は、胃や大腸の粘膜に急性の潰瘍や炎症を引き起こすことがあります。


  • 血便との関係
  • 大腸に潰瘍や炎症が起こった場合、腹痛を伴って血便(赤黒い便、粘血便)が見られることがあります。これは、ストレスによる虚血が一因と考えられています。
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  • 3. 潰瘍性大腸炎・クローン病(再燃)

  • これらの炎症性腸疾患(IBD)は、自己免疫異常が原因で発症しますが、ストレスが症状を再燃・悪化させる強力な要因の一つであると医学的に認められています。


  • 血便との関係
  • ストレスによって炎症が強まると、腸の潰瘍からの出血が増え、粘血便の回数が増加します。

ストレス性血便への対処法

血便の専門的な検査で異常が見つからなかった、あるいは軽度の痔やストレス性大腸炎と診断された場合は、ストレスケアと生活習慣の見直しが重要になります。

1. ストレスマネジメント

生活リズムの安定

規則正しい睡眠時間を確保し、自律神経の乱れを最小限に抑えましょう。

適度な運動

軽い有酸素運動(ウォーキングなど)は、ストレスホルモンを減らし、自律神経を整えるのに役立ちます。

リラックス

入浴、趣味、瞑想など、意識的に心身をリラックスさせる時間を作りましょう。

2. 食事と腸内環境の改善

消化しやすい食事

ストレスを感じている時期は、胃腸に負担をかけないよう、刺激物や脂質の多い食事を避け、消化の良いものを摂りましょう。

腸内環境のケア

乳酸菌やビフィズス菌を含む食品(ヨーグルト、発酵食品)や、食物繊維を適切に摂取し、腸内フローラのバランスを整えましょう。

3. 医療機関への相談

血便は一度治まっても、ストレスの状況によって再発することがあります。原因がストレスであると分かっても、根本的なストレス源の解消や、IBSなどへの専門的な治療(薬物療法を含む)が必要な場合があります。
消化器内科に加え、心身症を扱う心療内科との連携も、症状の改善に有効です。

まとめ

    • 血便は、心と体が発する重要なアラートです。ストレスは、自律神経を通じて腸の血流や粘膜に悪影響を与え、血便の発生や悪化に深く関わります。
      しかし、「ストレスのせい」と自己判断してはいけません。 血便を見たら、まずは内視鏡検査などで重篤な病変がないかを確認することが、ご自身の健康を守る第一歩です。その上で、ストレスとの関連性を考慮し、適切な治療と生活習慣の改善に取り組んでいきましょう。