潰瘍性大腸炎になりやすい人とは
血便・下痢が続く原因は? 潰瘍性大腸炎の隠れたリスク因子と早期受診の重要性
潰瘍性大腸炎とは?病気の基本理解- 潰瘍性大腸炎の「なりやすい人」とリスク因子
- 潰瘍性大腸炎の診断と治療の選択肢
- 早期受診が予後を分ける
血便・下痢が続く原因は?
潰瘍性大腸炎の隠れたリスク因子と早期受診の重要性
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潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる病気です。国の指定難病の一つであり、主な症状は血便、下痢、腹痛で、症状が落ち着いている寛解期と、症状が悪化する再燃期を繰り返す特徴があります。
難病と聞くと不安になるかもしれませんが、適切な治療によって病状をコントロールし、健康な人と変わらない通常の生活を送ることが十分に可能です。しかし、そのためには早期発見と継続的な治療が不可欠です。
本コラムでは、この潰瘍性大腸炎の発症リスクが高まる因子、つまり「なりやすい人」の傾向について詳しく解説します。自分は大丈夫か?と不安を感じている方や、症状に心当たりのある方に向けて、早期受診の重要性をお伝えします。
潰瘍性大腸炎とは?病気の基本理解
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潰瘍性大腸炎は、腸の病気の中でも特に、免疫システムの異常が深く関わる病気です。
病態と主な症状
病態としては、何らかの原因で自己の免疫システムが過剰に反応し、自身の大腸の粘膜を攻撃して炎症を起こします。炎症は通常、直腸から連続的に始まり、大腸全体に広がることがあります。
【主な症状】
- 血便・粘血便:
炎症で傷ついた粘膜から出血し、ゼリー状の粘液と混ざって排出されます。これは潰瘍性大腸炎の最も特徴的な症状です。 - 下痢:
炎症により大腸の水分吸収能力が低下するため、頻繁に水様〜泥状の便が出ます。 - 腹痛:
下腹部、特に左下腹部に痛みを訴えることが多いです。 - しぶり腹(テネスムス):
便意があるのに排出できない、残便感がある状態。
治療の目標は「寛解維持」
潰瘍性大腸炎の治療は、炎症を抑えて症状がない状態(寛解)を目指し、その状態を長く維持すること(寛解維持)が目標となります。寛解期に入れば、通常の生活を送ることができます。
- 血便・粘血便:
潰瘍性大腸炎の「なりやすい人」とリスク因子
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潰瘍性大腸炎の原因はまだ完全に解明されていませんが、遺伝的要因、環境要因、免疫学的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的・家族的要因
潰瘍性大腸炎は遺伝病ではありませんが、家族内発症が知られています。
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家族歴:
親や兄弟、親戚に潰瘍性大腸炎の患者がいる場合、発症リスクは高まります。一般人口に比べ、数十倍リスクが上昇するという報告もあります。 -
遺伝子:
特定の免疫に関連する遺伝子の変異が関与していることが示唆されており、体質的ななりやすさがあると考えられています。
環境要因(食生活・衛生仮説)
食生活や生活環境の変化も、発症に関与していると見られています。
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食生活の欧米化:
脂肪分やタンパク質の摂取量が多い欧米型の食事や、食物繊維の不足は、腸内環境を変化させ、発症リスクを高める可能性があります。 -
衛生仮説:
現代社会における過度な衛生環境が、幼少期の免疫システムの成熟を妨げ、アレルギーや自己免疫疾患の発症につながるという考え方です。日本など先進国での患者増加傾向と関連付けられています。
免疫システムの異常(自己免疫疾患)
発症の根幹には、自己免疫の異常があります。何らかの引き金(感染症、ストレスなど)により、免疫システムが暴走し、大腸の粘膜を異物と誤認して攻撃してしまうことで炎症が起こります。
喫煙の影響:タバコは「なりにくい」が再燃には要注意
多くの病気では喫煙がリスク因子となりますが、潰瘍性大腸炎に関しては少し複雑です。
- 発症リスク: 潰瘍性大腸炎は、非喫煙者や元喫煙者に発症しやすいことが知られており、喫煙者の方が発症しにくいという逆説的な傾向があります。
- 再燃リスク: しかし、発症後に喫煙を再開すると、病状が再燃・悪化しやすいことが指摘されています。
いずれにしても、喫煙は肺がんや心疾患など他の健康リスクを高めるため、推奨されるものではありません。
若年層での発症が多い
発症年齢は10代〜30代の若年層にピークがあり、高齢での発症は比較的少ない傾向があります。若くして血便や下痢を繰り返している場合は、特に注意が必要です。
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潰瘍性大腸炎の診断と治療の選択肢
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診断の決定打:大腸内視鏡検査と生検
潰瘍性大腸炎の診断には、症状や血液検査に加え、大腸内視鏡検査が不可欠です。内視鏡で大腸粘膜の潰瘍や炎症を直接確認し、組織の一部を採取(生検)して、顕微鏡で好中球などの細胞浸潤や粘膜の構造異常を確認することで、確定診断に至ります。
主な薬物療法
治療薬は、病気の重症度や炎症の範囲によって使い分けられます。
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5-ASA(アミノサリチル酸)製剤:
炎症を抑えるための中心的な薬で、軽症〜中等症の治療、寛解維持に用いられます。 -
ステロイド:
急性期で症状が強い場合に、強力に炎症を抑えるために用いられます。 -
免疫調節薬・生物学的製剤:
従来の治療薬で効果がない場合や、重症例に対して用いられ、免疫システムの異常を標的として高い効果を発揮します。
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早期受診が予後を分ける
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潰瘍性大腸炎の症状である血便や下痢は、「痔だろう」「食あたりだろう」と自己判断され、放置されがちです。しかし、重症化すると入院が必要になったり、大腸がんに進行するリスクが高まったりします。
数週間にわたり血便や下痢が続いている、腹痛が治まらないといった症状がある場合は、自己判断せずに、必ず消化器内科の専門医にご相談ください。早期に適切な診断と治療を開始することが、症状をコントロールし、病気と上手に付き合っていくための最も重要な一歩となります。


