内視鏡検査 65歳以上は行わないほうがいいの?
- 「65歳以上だから不要」とは限らない理由
- 高齢者こそ内視鏡検査を受けるべき重要なメリット
- 知っておくべき高齢者の検査リスクと注意点
- 受けるべき?やめるべき?判断のポイント
- 高齢者が安全・安楽に検査を受けるための工夫
- 自己判断せず相談を
65歳を迎え、自治体のがん検診や人間ドックの案内を目にした時、「もう還暦も過ぎたし、辛い思いをしてまで胃カメラや大腸カメラを受ける必要があるのだろうか?」と疑問に思う方は少なくありません。
年齢を重ねると体力に自信がなくなり、検査に伴う体への負担やリスクが心配になるのは当然のことです。
では、本当に「65歳以上は内視鏡検査を行わないほうがいい」のでしょうか?
結論から申し上げますと、「年齢だけを理由に検査をやめるべきではないが、受けるかどうかは個人の健康状態に合わせて慎重に判断する必要がある」となります。
「65歳以上だから不要」とは限らない理由
まず知っておいていただきたいのは、医学的なガイドラインにおいて、「内視鏡検査は何歳まで」という明確な上限年齢は定められていないということです。
医療の現場では、カレンダー上の年齢である「暦年齢(実年齢)」よりも、その方の体の元気さや臓器の機能を反映した「生物学的年齢」を重視します。
例えば、同じ80歳であっても、毎日元気に散歩をして食事も美味しく召し上がっている方と、寝たきりで多くの持病を抱えている方とでは、検査の必要性や安全性が大きく異なります。
「もう年だから」と一律に検査を諦める必要は全くありません。
高齢者こそ内視鏡検査を受けるべき重要なメリット
- むしろ、65歳を過ぎてからの年代こそ、内視鏡検査を受ける意義が大きい時期とも言えます。
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メリット① がんの罹患率は年齢とともに上昇する
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胃がんや大腸がんは、若い世代よりも60代以降の中高年層で発症率が急激に高まります。老化に伴い細胞ががん化しやすくなるため、これまで異常がなかった方でも注意が必要です。
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メリット② 早期発見が「健康寿命」を延ばす鍵
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がんは早期発見・早期治療ができれば、内視鏡を使った体への負担が少ない治療で完治を目指せます。
逆に、発見が遅れて進行してしまうと、開腹手術や抗がん剤治療など、体への負担が大きい治療が必要になります。高齢になってからの大きな手術は、その後の体力低下や寝たきりのリスクにもつながりかねません。
元気なうちに病気を早期に見つけ、小さな負担で治すことが、その後の健康寿命を維持するために非常に大切です。
知っておくべき高齢者の検査リスクと注意点
- 一方で、若い頃に比べて検査のリスクが多少高まることも事実です。メリットだけでなく、リスクもしっかりと理解しておく必要があります。
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リスク① 偶発症の可能性
- 内視鏡検査は安全な検査ですが、ごく稀に粘膜を傷つけて出血したり、腸に穴が開いたり(穿孔)する偶発症のリスクがあります。血管や組織が脆くなっている高齢者では、若年層に比べてそのリスクがわずかに高くなる可能性があります。
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リスク② 基礎疾患(持病)の影響
- 高血圧、心臓病、糖尿病、呼吸器疾患などの持病がある場合、検査中に血圧が変動したり、呼吸状態が不安定になったりすることがあります。
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リスク③ 服用しているお薬(特に「血液をサラサラにする薬」)
- 脳梗塞や心臓病の予防のために、抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を服用している方は注意が必要です。お薬の種類によっては、検査(特に組織を採る生検やポリープ切除)の前に数日間の休薬が必要になる場合があります。自己判断での休薬は大変危険ですので、必ず事前に医師へ相談してください。
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リスク④ 大腸カメラの前処置(下剤)の負担
- 大腸内視鏡検査では、当日に約2リットルの下剤(腸管洗浄液)を飲んで腸を空っぽにする必要があります。高齢の方にとって、この大量の水分摂取が心臓や腎臓への負担となったり、脱水症状を引き起こしたりするリスクがあります。
受けるべき?やめるべき?判断のポイント
- では、最終的にどのように判断すればよいのでしょうか。医師は主に以下の点を考慮してアドバイスを行います。
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ポイント 自覚症状の有無
- 「胃が痛い」「食欲がない」「便に血が混じる」「便通異常がある」
- といった症状がある場合は、年齢に関わらず、病気の原因を突き止めるために内視鏡検査が強く推奨されます。
高齢者が安全・安楽に検査を受けるための工夫
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現在では、高齢の方でも安全かつ楽に検査を受けていただけるよう、様々な工夫が行われています。
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鎮静剤(静脈麻酔)の慎重な使用 -
苦痛を和らげるために鎮静剤を使用することが一般的です。高齢者では効きすぎて呼吸が抑制されるリスクもあるため、呼吸状態をしっかりモニタリングしながら、少量から慎重に使用します。
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経鼻内視鏡(胃カメラ)の選択 - 口からのカメラが苦手な方には、鼻から挿入する細いカメラを選択することで、嘔吐反射(オエッとなる感覚)を軽減できます。
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自己判断せず相談を
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「65歳以上だから受けるべき」「65歳以上だからやめるべき」という画一的な答えはありません。
最も大切なのは、ご自身の現在の健康状態、持病、飲んでいるお薬、そして今後の人生に対する考え方を医師に伝え、相談することです。
不安な点があれば、遠慮なく当院までご相談ください。


