「食べ物が詰まる」アレルギー性の食道炎:好酸球性食道炎(EoE)の病態と最新治療
最近、欧米を中心に患者数が増加し、日本でも認知度が高まっている病気に 「好酸球性食道炎(Eosinophilic Esophagitis: EoE)」 があります。
これは、食道にアレルギー反応によって集まる好酸球という細胞が原因で炎症を起こす病気です。主な症状は、食べ物が詰まる感覚(食物のつかえ感)や胸やけ、嚥下困難です。
症状が 胃食道逆流症(GERD) と似ているため誤診されやすい病気ですが、そのメカニズムや治療法は一般的な食道炎とは異なります。本コラムでは、この比較的新しい病気である好酸球性食道炎について、その病態、診断、そして最新の治療法まで、専門医の視点から分かりやすく解説します。
好酸球性食道炎(EoE)とは?アレルギーが原因の食道炎
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EoEは、食道が慢性的なアレルギー反応によって障害される病気です。
好酸球の役割とEoEの病態
好酸球とは、白血球の一種で、通常は寄生虫の排除やアレルギー反応に関わる細胞です。健康な人の食道には、好酸球はほとんど存在しません。
EoEの患者様の場合、特定の食物(牛乳、小麦、卵など)や環境中のアレルゲン(花粉、ダニなど)が原因となり、食道の粘膜でアレルギー反応が起こります。この反応によって、好酸球が食道粘膜に大量に集まり、放出する毒性物質によって慢性的な炎症と 組織の線維化(硬くなること) が引き起こされます。
好酸球性食道炎と胃食道逆流症(GERD)の違い
EoEの症状である「胸やけ」はGERD(逆流性食道炎)と酷似していますが、原因が決定的に異なります。
- GERD: 胃酸の逆流による粘膜の化学的損傷。治療は主に プロトンポンプ阻害薬(PPI) で胃酸を抑える。
- EoE: アレルギー細胞(好酸球)の浸潤による炎症。PPIが効かないことが多く、診断の重要な手がかりとなります。
好酸球性食道炎の主な症状:食べ物の「つかえ」に注意
EoEは、炎症が持続することで食道の壁が厚くなったり、線維化したりするため、食べ物の通り道が狭くなる(食道狭窄)のが特徴です。
食物のつかえ感(嚥下困難)
最も特徴的で、患者様が受診する主なきっかけとなる症状は、 固形物が食道で詰まる感覚(食物のつかえ感、嚥下困難) です。特に肉やパン、硬いご飯などを食べた時に起こりやすく、このつかえ感はEoEを強く疑うべきサインです。
その他の症状
- 胸やけ・胸痛: 胃酸の逆流とは異なるタイプの炎症による症状です。
- 上腹部痛: 食道の運動機能の異常による痛み。
- 小児の場合: 成人とは異なり、哺乳障害、嘔吐、腹痛、体重増加不良といった非特異的な症状で現れることが多いです。
症状が進行し、食べ物が完全に食道に詰まってしまう状態を 食物嵌頓(しょくもつかんとん) といい、緊急の内視鏡処置が必要になることもあります。
診断の鍵:内視鏡検査と組織検査
EoEは、問診や症状だけでは診断できず、内視鏡検査による粘膜の直接観察と、組織の一部を採取する生検が不可欠です。
内視鏡所見の特徴
EoEの患者様の食道粘膜には、以下のような特有の所見が見られることがあります。
- 食道輪(トラケライゼーション): 食道に横方向の輪状のヒダが多数見られる所見。まるで 動物の気管(Trachea) のように見えることから名付けられました。
- 縦走溝: 食道に縦方向の溝が見える所見。
- 白斑・白いプラーク: 好酸球の集まりや炎症によるものです。
ただし、内視鏡で見ても異常がないように見えるケース(内視鏡的異常なしEoE)もあるため、見た目だけで判断することはできません。
診断の決定:好酸球数のカウント
診断を確定するためには、食道の複数の場所から粘膜組織を採取し、顕微鏡で好酸球の数を数えます。
- 診断基準: 高倍率視野(High Power Field: HPF)あたり15個以上の好酸球が浸潤していることが、EoEの診断基準の一つとなります。
好酸球性食道炎の治療と管理
EoEの治療は、食道の炎症を抑えることと、狭窄を防ぐことが目的となります。
薬物療法:ステロイド局所療法
EoEの治療の中心となるのは、ステロイドの局所療法です。
フルチカゾンやブデソニド: これら吸入用のステロイド薬を、吸入せずに飲み込むことで、食道の粘膜に直接作用させ、好酸球による炎症を抑えます。全身への影響が少ないのがメリットです。
PPI(プロトンポンプ阻害薬): 一部のEoE患者様にはPPIが有効である場合があり、これも治療の選択肢の一つです。
食事療法:アレルゲン除去食の検討
原因となっているアレルゲンを特定し、食事から取り除くことで炎症を抑えます。
- アレルゲン特定: 血液検査や皮膚テストでアレルゲンを特定します。
- 6-食物除去食: 最も一般的なアレルゲンである牛乳、小麦、卵、大豆、ナッツ類、魚介類をすべて除去し、症状が改善したら一つずつ再導入して原因を特定する手法が用いられます。
内視鏡的治療:食道拡張術
炎症が慢性化して食道が狭窄してしまった場合、 内視鏡を使って狭くなった部分を広げる(食道拡張術) 処置が必要となることがあります。
専門的なアプローチの重要性
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好酸球性食道炎は、アレルギー疾患の側面を持つため、消化器内科医だけでなく、アレルギー専門医との連携が重要となることがあります。
「食べ物が詰まる」「胸やけがPPIで治らない」といった症状がある方は、ご自身がEoEの可能性があることを念頭に置き、内視鏡検査と生検による正確な診断が可能な消化器内科の専門医療機関にご相談ください。早期に炎症をコントロールすることで、食道狭窄への進行を防ぎ、日常生活の質を維持することができます。


